放置プレイという躾け
ご主人様のお部屋の隅っこに私はモノみたいに括りつけられました
身体のバランスを変えるたびに
キシキシ、キシッ…て
麻縄が悩ましい音をたてます
手首のあたりが吊り上がる感じ、股縄がきゅっと食い込む感じ
皮膚に麻縄がゆっくりと溶け込んでいく感覚を味わいます
「これは躾だからな、放置されている自分と向き合って、奴隷であることを心と身体に染み込ませなさい」
はい、ご主人様…
少し離れたソファで寛ぐご主人様は
ローターの電源を入れたら
テレビを見はじめてしまいました
私は媚びるように視線を送ったり
ごしゅじんさまぁ…とすがるような声を出したけど
相手にしてもらえませんでした…
たまにこっちを見てくれるけど…
指一本でもいいから、触れてください…
切実に思いました
吊るされながら
筆で優しく虐めてもらったことを思い出したら
身体のあちこちがむずむずしてきて
もどかしくて泣きそうになりました
ちょっと離れたところにいるのに…
ご主人様にかまって貰えないのは寂しい
けれど
細胞は歓喜に震えていました
やっぱり私はマゾなんだ…
確信しました
ずっとこうされたかった…
そんな憧れから
少し堕ちたところに
哀しみにも似た名もない感情があることを知り
感じ方がどんどん深くなっていく
前とは変わった自分に出会いました
「完全に虜だな。俺が躾た通りに変わっていってるもんな…」
はい、ご主人様…
私は、ご主人様の手の中で生きています
とても
もう離れることなんて出来ない…
ご主人様の側を離れることは
呼吸を忘れるのと同じくらい
私を脅かす…
ご主人様に縛られる とろける麻縄
部屋の電気が消されて
ご主人様は襖をすべて締め切ってお部屋を出ていってしまいました
「しばらくの間、暗い部屋でおとなしくしていなさい…」
はい、ご主人様…
寂しい…
さっきまで一緒にいてくれたのに…
かまってもらえなかったけど
ご主人様の姿が見えるだけで安心できたから
だんだん不安になってきました
こんな風に暗い部屋に放っておかれるのははじめてのことです
不覚にもご主人様を怒らせてしまい、散々お説教された後に
お仕置きでこんな風に放置されたら…
想像するだけでも震え上がります
ご主人様の命令には絶対逆らいません
どんな命令も必ず守ります
従順で素直な女でいます…
心の中で絶対服従を誓いました
ご主人様とカフェで一緒に食事したことを思い出しました
唐揚げが美味しいから食べてごらん、と分けてくれたので
私のおかずもご主人様とはんぶんこしました
コーヒーが美味しいね、って…
器がどれもきれいですね…
何気ないお喋りをしながら
にこやかなご主人様を見てるだけでお腹いっぱいになるくらい幸せ…
そんな普通の恋人同士のような爽やかであまい時間と
全裸に縄を括られ吊るされてから
暗い部屋に放置され、奴隷として厳しく躾られる
官能的なあまい時間…
どちらもステキでした
どちらか片方だけじゃだめで
どちらもあって私達なのだと思いました
身体の奥で小さく震えるローターと
肌に食い込む縄に追い込まれます…
軋む麻縄と身体が溶け合っていくみたい
頭がぼぉっとしてきました
拘束されて身体は不自由なのに心は自由で
私はイキイキとすらしていた
きつく縛られた縄はちっとも痛くなんてない…
血さえ止まらなければ
ずっと、ずっとこのままでいたい
ご主人様が縛ってくれたから
ご主人様に抱き締められているのと同じです
さっきからずっと刺激が欲しくてもて余していた身体に
触れたくても触れられないせつなさ
はしたないけれど股縄の責めを欲して
身体をくねらせる自分をどうしようもできなくて…
ごしゅじんさまぁ…
結局、ご主人様しか頼れない…
この身体も精神も、完全にご主人様のモノなのだと身に染みてわかりました
ご主人様のSMは、あまくせつない…
襖があけられてご主人様のお顔が見えた時
緊張感は一気にほぐれました
ごしゅじんさまぁ…
泣き顔を見せてごらんって
頬っぺたを優しく撫でられ
目の縁を指で拭ってくれました
ご主人様の目を見ながら
いい子にしてるから、捨てないで下さい…
そう思いました
心が、まるで子どもみたいです
よしよし、いいこだねって
髪を優しく撫でられて
縄がほどかれました
あぁ…なんて哀しいの
この瞬間の哀しさっていったらない…
どうか縄をほどかないで…
自由になった手はだらんとして
赤い蛇が巻き付いているみたいに
縄の痕がくっきりと残されていて
“奴隷の証” を見て胸がいっぱいになりました
指の先まで血が通って
ご主人様に触れたくて手を伸ばすと
ぎゅっと抱き締めて下さいました
全身の力が抜けて
ご主人様に身も心も委ねて
またほんの少し泣きました…
鼻先がご主人様の首筋に触れたから
くんくんかいでみました
安心する大好きなにおい
私は完全にこの人のイヌだなって思いました…
