悶々とするマゾの心
ちょうど去年の今ごろです、ご主人様の存在を知ったのは
この地球のどこかにその人はいるはずなんだけど
絶対交わることはないのだろうし
自分などが望んではならいことだと言い聞かせていました
メッセージを送っても、きっと返ってこないだろうと思っていたから
傷つきたくなくて、なにもしないことにしたけれど
冬が来た時
孤独に耐えかねて、藁をもすがる思いでキーボードを叩きました
【送信】
クリックするまで息を止めてたことに気付かなかった…
本当はMです
白い壁にかけられた、額縁に入った写真を見ました
子どもの七五三を祝う自分が
母親の顔で幸せそうに微笑んでいました
ずっとそれを見続けていると、せつなくて泣けてきました
マゾの自分を殺した上に成り立つ全ての事が
偽善に感じて
このまま生きていくことに希望が持てなくなりました…
家族のため、子どものためとなりふり構わず必死に駆け抜けてきて
節目を祝った時、私は自分が好きじゃなかった
「私はMです」
なんて言えっこないから、気休め程度にマッチングアプリに登録しました
リアルでは求められない出会いの形がそこには確かにあって
私はほんの少しほっとしたのを覚えています
自分と同じようにMな女の子もいっぱいいて
みんな明るく楽しそうに見えて
ちょっと羨ましくなりました
あぁ、素直に出会いを求めても良いんだ…と
プロフィールには当然のように
未婚か既婚かを記す欄が用意されていました
既婚、と記入したとき心が少しいたみました…
でも、マゾの自分はもっと痛みを抱えていて
現状を変えたい思いでいっぱいでした
女の子だけのコミュニティ
親友にも打ち明けられない、この悶々とした悩みを
誰かに聞いてもらいたくて
私はまず、PCMAXの中の女性だけの掲示板に書き込みをしてみました
そうしたら、同じような状況の人から励まされたり
自分も悩んでいたんです、というコメントを頂いて
私の思いに共感して貰えて嬉しかったです
リアルな世界にばかり解決を求めていた自分の逃げ場として
PCMAXに良く足を運ぶようになりました
S男性で住まいの近い人を検索してみます…
大勢いることに驚きました
こんなに出会いを求めてる人で溢れているのに
現実の世界ではわからないものだなぁって
S男性からご主人様を探す
気になる人がいました…
プロフィールを見て、電車で一時間くらいの街に住んでいることがわかりました
“いいね” と “気になります” をクリックします
ドキドキしました
その人が書いた文章を読みました
そうしたら、もっと気になり出しました
その人の選ぶ言葉とか、思いや、SM観があまりにもステキで…
私は、毎日のようにその人の綴ったものを読みました
こんな風に可愛がられたり
虐められたり、弄ばれたりしたいな…
この人の奴隷だった子達は、みんな幸せだったんだろうな
羨ましいなぁ、私もこの人に飼われたい…
やがて、その人のSM観は自分のSM観となるほど
私はその世界に魅了されました
毎晩、その人の奴隷になる自分を妄想しては
せつない夜を過ごしました
奴隷になりたい、そんな高望みはひとまず置いておいて
心を込めて書いたメッセージを送ってみました
せめてお話だけでも出来たらいいな…
“真剣なメッセージをありがとう”
お返事の一言目にそう書かれてるのを見て
思わずケータイを抱き締めました
さながら、アイドルへ送ったファンレターに返事を貰えたような気分で
舞い上がった自分が忘れられません
私のためだけに書いてくれた文章は
やはり美しく、それでいて背中を押されました
何度もメッセージのやり取りをして
プライベートの連絡先を交換して貰えました
色んなお話をして相談にのって貰って
いつの間にか、その人は私にとって
誰よりも私をわかってくれて、
誰よりも私をわかって欲しい人
になっていることに気付きました
でも、メールのやり取りの中で
私は甘え過ぎてしまい
一線をひかれたお返事を読みながら
わーわー泣きました…
もう二度とお話出来なくなるかもしれない…
どうしよう、そんなのイヤ…！
謝りました…
それで数日後、とても心のこもったメッセージを下さって
また泣きながら読みました
“私のご主人様になって下さるかもしれない方”
その人のことを、心の中でそう呼んでいました
会いたい…
こんなに強く誰かを求めることはなかったから
逃しちゃいけない、と思いました
「会っていただけませんか…」
伝えるまで、頭痛がするほど逡巡しました
M女性は受け身、待つのが性質でスタンスでしょうけど
時に、能動的に
そして掴まなければならないチャンスを見極めたのならば
勇気を出しすことも必要だと思います
その相手が “本物のS男性” ならば
お願いしなければならない立場であることも弁えるべきだと思います
“私のご主人様になって下さるかもしれない方” が
“私のご主人様” に変わる日がそう遠くないことを
この時の私はまだ知りませんでした…
