外で虫が鳴いていた。
飼い主を待つペット
その日、ホテルで会うことになっていた。
私はメールをした。
”玄関で首輪で四つん這い”
しばらくしてメールに画像が添付されていた。
紅い首輪で四つん這い。
髪が下に垂れていた。
もちろん裸。
飼い主を待つという躾け。
犬のように、首輪をつけて飼い主をただ待つ自分を見つめる。
みじめさ、やるせなさがやがてせつなさになる。
床をじっと見つめながら、飼われている自分の立場を感じて、マゾヒズムの被虐があまさに変わる。
もどかしさを感じながら、心はしんとしてくる。
なにもされない体は熱くなる。
主と奴隷の関係は共鳴だ。
奴隷の心情を感じて、私はほっこりする。
緊縛し、躾け、仕置きや褒美を与えながら、M女は、自分を縛ることで飼い主が喜んでいるということに悦びを感じる。
ただ虐めるだけ、責めるだけがSMではない。
もっと深く、ほんとうは温かいものだ。
玄関を開けると、四つん這いでうつむいたまま、尻を振った。
首輪をつけているときは、うれしい時尻を振るように躾けていた。
よしよしと頭をなでる。
さみしかったかと聞くと、はいと答えた。
辛かったかと問うと、しあわせだったと答えた。
おすわりさせて、靴箱の中にあるチェーンを首輪につないだ。
四つん這いで私に曳かれながら部屋へ向かう。
尻が動いて、いい女になったと思った。
体を捧げるマゾヒズムの被虐
テーブルには簡単なつまみが用意されていた。
席に着くと、隣りに立ち、ビールを注いでくれた。
飲みながら、女の膨らみを指の腹でさすると、私に見えるように足を肩幅に開いた。
久しぶりだから、少しのびてきていた。
”あとで剃ろうな”
”はいご主人様”
”元気だったか?”
”はい”
豆の右の上が美雨の急所だ。
そこを押すと腰を引いた。
尻を叩く。
ごめんなさいと私に捧げた。
隣りに座らせ、口移しで酒を飲ませた。
体の柔らかさ、温かさを堪能した。
私は、私のものである白い体を調べた。
教育した通りに、両手を背中で組んでされるがままでいた。
私はひとりではなかった。
私の膝の上にうつぶせに乗せた。
子供がお尻ぺんぺんされるときのような姿勢だ。
尻の肉がついてきて、腰がくびれてきていた。
M女は調教されると体が変わる。
肉が柔らかくなり、女らしいラインになる。
尻を叩いたり、アナルを広げたりした。
アリの戸渡をなぞると、弱く哭いた。
背中で交差させた両手を片手でがっしり掴んで女を責めた。
いつか自分の幸せをつかむときがきたら、私から離れていけよと心の中で呟いた。
その話をすると泣くからしなかったけれど、感じていたのは知っていた。
だからいっそう深くなったのかもしれなかった。
ゆっくり追い上げ、寸止めした。
どこがどう感じるか、どうすればいいか、体のすみずみまで熟知していた。
そのことがうれしかった。
ふたりぼっち
ご飯の準備をした。
裸、首輪、エプロンが私は好きだった。
皿を並べ終わり、どうすればいいか? というふうに私の目をみつめた。
”向かいで食べよう、なにか着なさい”
”はいご主人様”
隣りにはべらせたり、裸のまま食事させたり、普通にカップルのようにしたり、その時その時だった。
ご飯を食べた。
ひとりではなかった。
いろいろな話をして、笑い、食べた。
ワインを飲んだ。
小さな笑い声が部屋に満ちて、団らんという言葉が浮かんで泣きそうになったのを覚えている。
私が至福だったのは、控えめに楽しそうにしていたからだ。
M性に悩み、普通のセックスでは満足できない自分をいつも責めていた。
勇気をだして、私に連絡してきて、奴隷になった。
いつもの自分ともうひとりの自分。
日常と非日常を同時進行させることで人生が動きだしていた。
仕事をして、将来の夢があって、日常が充実するようになった。
きれいになった。
奴隷になるということは堕ちることじゃない。
それは開放だ。
心の奥のもうひとりの自分ときちんと向き合うこと、そこを癒すことで普段が輝いてくる。
マゾヒズムは確かにマイノリティだけど、変態ではない。
委ねたい、管理されたい、飼われたい、虐められたいのは、あまえたい、さみしいという心の奥の願望だ。
それは、女としてのかわいらしさだ。
人生がおかしくなるSMならしないほうがいいと私は思う。
痛いだけとか、汚いとか、ただ大声でどなるとか、ただバイブで責められたり、ただ縛ったりがSMじゃない。
虐められたあとに優しくされる。
飴と鞭。
SM 主従は深いもので、少しずつそうなるものだろう。
(そうじゃないという人もいるから、それはそれでいい、いろんなSMがあっていい)
恋人のような時間を楽しんでから私は伝えた。
”縄を持ってきなさい”
瞬間、体が震え、眼が潤んで、はいご主人様と立ち上がった。
縄を私に渡すと、服を脱ぎ、自分から正座で後ろ向きで両手を背中で組んだ。
ゆっくり厳しく縛った。
縄に抱きしめられていく。
体を拘束され、主の意のままにされる自分。
昂らされ、焦らされる。
鞭で打たれながら、筆で責められる。
体を捧げ責められながら、あまさとせつなさを交互に与えられることで心も支配されること。
おねだりさせられ、開放する自分を捧げること。
それをすべてさしだし、見られること。
そういうことを知っているから、縛られながら、喘ぎ続けた。
ほのぼのとした哀しみに満たされていたのは私の方だった。
縛り終え、こっちを向かせて何もしないでただみていた。
か弱く、はかないのはM女の魅力だ。
そしてそんな自分が愛しい。
M性のない女性にそれはわからない。
神々しくさえあった。
縄の味を覚えたから、縄酔いし、何もされないことがもどかしく、体をもぞもぞさせるのが妖しい。
そして、そっと瞬きすると、涙をおとした。
胸が、ぎゅっと締まった。