やっと会えた。
世間から見たら違うと思われる、マイノリティな関係性。
だけど、確かで深いのが主従だ。
お互いを確かめるように、そっと、表情を確かめあい、目が合い、そして俯く。
縛りながら、鞭を使いながら、仕置きしながら、奉仕をさせながら、服従の言葉、奴隷の誓いを復唱させながら、思うさまざまがある。
それは奴隷も同じだ。
だから、多くの言葉は必要ない。
確かめ合う静かな時間の中で、音がある。
SMにはSMの音がある。
小さく、かすかだけれど、胸の奥にまで響く音がある。
そんなこと、書いてみる。
SMの音
茶碗の音。
テレビの音。
好きな唄。
ドアの開く音、街の中からひとりになる、ドアの閉じる音。
灯りをつける、消す、ぱちんという音。
暮らしに音があるのと同じでSMにも音がある。
せつなく、心に響く音がある。
こすれる縄の音
しゅっしゅっと、小さく聞こえる。
するする。
きゅっ。
縛るとき、縛られるとき、聞こえる。
縄に抱きしめられるそのとき、かすかに聞こえる音がある。
これから主の思うように扱われ、主のために自らの心と体を捧げる覚悟を決めさせるための音だと、奴隷として飼い主に管理、飼育、所有されているのための音だとM女は思う。
肌に食い込み、体の自由を奪われ、責められ、じらされ、誓わされ、幼い頃に退行し、解放する。
そんなさまざまを感じながら、M女は縄の音を遠くで聞く。。。
繋がれるチェーンの音
髪をあげて、首輪を受ける。
かしゃんと音がする。
首輪をチェーンで繋がれたのだと理解する。
厳しく躾けられているから、その音を合図として、自らメスの四つん這いになる。
私はチェーンを背中において、ぐいっと引く。
じゃらんと音がする。
繋がれている自分にリアリティがある。
つまり、自分の立場をあらためて、実感する。
奴隷であること。
飼われていること。。。
繋がれ、四つん這いで部屋を歩かされる。
主が手に持ったチェーンを振ると、じゃらじゃらと音がして、いつものように歩みを止める。
そのままの姿勢で次の命令を待っていると、主の言葉が上から降ってくる。
お座り。。。
伏せ。。。
その姿勢をつくるとき、金属が触れる音がして、そして濡らす。
そのことをとがめられ、ごめんなさいと恭順を伝える。
次の命令を聞いただけで、体が揺れて、チェーンの音が部屋に響く。
ちんちんしてごらん。。。
命令をこころに染み渡らせるために、少しの空白の時間があって、そして命令されたポーズになるとき、ごとごとと電車のようにチェーンが鳴る。
その音が愛しく、温かくなる。
そして、忙しくて置きざりにした、幼い自分に気づいて、大丈夫だよと声をかける。
こだまする鞭の音
痛いだけだったのが、少しずつあまくなる。
ぱんぱんという音は、ぱちんぱちんと変化して、びしっびしっと耳に響く。
遠くから聞こえるようでもあり、耳のすぐそばで鳴っているようでもある。
教えられたお仕置きのポーズ。
振り下ろされる、皮でできた鞭。
捧げるように、私にさしだされた尻が紅く染まっていく。
ひっひっと打たれるたびに背中をそらせていたけれど、あぁ‥あぁ‥と被虐の悦びを感じ始める。
一度鞭の手を止めて手のひらでなぞると、熟れた桃のような尻は熱い。
そのとき、ふと、わかるものがある。
通常の恋愛では、もしかしたら、わからないことなのかとも思う。
ビルのすきまに、やっと見えた夕日をただ見つめている姿。。。
今の自分を認めることができなくて俯いたときに、そっと通りすぎる風。。。
団らんの家の灯りを横目で確かめて、靴音を響かせて歩いている、私の奴隷。。。
ひとりでご飯を食べて、田舎に電話しようとして、やめたり。。。
髪を洗いながら、少しだけならいいよねって自分に聞いて、流す涙。。。
そういうのが、なんとはなく伝わってくるから、なぞっている尻を手のひらで叩く。
あん、と、今までとは違う喘ぎはあまさを湛えている。
私はもう一度、鞭を手にする。
もし私が、主であるのに、不覚にも涙をおとすことがあったとしても、尻と背中を叩いているあいだだけは、見えないから。。。
静かな部屋に鞭の音だけが響く。
少し哀しく、はかなく、響く。
音のない音
素直だったから、厳しく調教したから、おいでと言ってとなりにはべらせる。
腕枕をして、縄のあとをなで、髪を梳く。
M女は私の片足を両足ではさみ、女をあて、濡れ具合、温もりを私に伝える。
唇を指でなぞり、歯を合わせる。
そんなとき、音は私たちには聞こえない。
肌の擦れるかすかな音も、受け身のキスを受ける音も、シーツの音も聞こえない。
ふたりぼっちの、音のない時間。。。
絹の音
シャワーの水の音がする。
私はソファで、少し震えている。
シャワーを終えて、生まれたままの姿で私の前に立つ。
許可を与えると、ひとつひとつ纏っていく。
もうひとりの自分、というのか、もうひとつの世界なのか、そういうものに戻るために、私に許しを請うように、服で自分を隠していく。
絹の擦れる音を遠くに聞いているとき、私は無力だ。。。
そして、少し前まで裸で抱いていた体を、服の上から抱きしめる。
繊維の音が哀しく、かすかな音なはずなのに、耳の奥にこだまする。
日常に戻りなさい。。。
がんばりなさい。。。
しあわせでいなさい。。。
M女は私の腕の中で、ひとつひとつに、はいご主人様と応える。
体を離したとき、奴隷の目から涙がおちた。
ぽつんという音を、私はそのとき、はっきりと聞いた。
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