商売でドタバタしていた。
だけど感謝されてできる仕事に感謝を忘れないようにしていた。
それでも疲れちゃって。
ひとりで街に酒飲みに行った。
場末のスナックで、門倉有希のJを唄った。
そしたら、美雨を思った。
優しいSM 温かいSM
美雨には家庭があるから、おたがい辛くなるからと躊躇しながら、ジャブを打つように始まった出会いだった。
美雨は真っ正面からぶつかってきた。
だからこっちも真剣に向き合った。
自分のもてる時間の中で、一生懸命に繋がろうとしてくれた。
はじめは、すぐに切れてしまいそうな糸をたぐりよせるような、頼りない関係性だった。
時間が折り重なり、私は美雨に恋をした。
多頭のつもりもあったけど、やめた。
美雨がいれば、なにもいらない。
美雨を見ていると、忘れかけちゃっていた、優しい気持ちが戻ってくる。
ぶくぶく太ったスナックのばばあの顔をみながら飲んでたら、よけいに酒が回った。
疲れてるんだとばばあは言ってたけれど、ばばあの顔のせいだった。
Jはいい。
隣りの禿げが盛んに拍手していたけど、そんなのはどうでもよくて、歌詞に、美雨はどうしているかと思った。
ご飯を作り、掃除をして、布団を干して、周囲とも上手に向き合いながら、ふと風を感じたり、月をみたりしているのだろう。
時間に追われ、生活の中に埋もれていく人生を、それでいいのかと逡巡しながら、それでもやらなきゃいけないことを一生懸命こなしているのだろう。
M性や自分のやりたいことは全部後回しにして、みんなが寝静まったころ、闇の中で孤独を感じてどうしていいのかわかなくなる時を繰り返していた。
俺にはわかる。
自分の殻を破ろうとして、私と向き合おうとした。
それでも生活も大切だからそのはざまで悩んでいた。
私のこともとても心配してくれた。
私は田舎の農家で育ったから、ばあちゃんが私を育ててくれた。
ばあちゃんは、生意気な私をただ褒めてくれた。
ばあちゃんに叱られたことは一度もない。
お前は人の気持ちがわかるから、それをいつまでも忘れるなって、人のために何かをできる男になれって。。。
自分に誰かが何かをしてくれたら、それを誰かにお返ししろって。
美雨は、そういうことを思いださせてくれる。
奴隷でペットでマゾでサブミッシブな恋人
会い、時間は止まらないから、また離れた。
離れると、心の距離は近づいた。
性欲だけのプレイがSMじゃないと思う。
こころの奥のところで、美雨と触れ合い、美雨も私の奥の部分を共有しようとしてくれた。
いつも静かに、控えめにそっと笑う。
私と向き合うときだけ、自分をさらけだし、捧げるのは、自分と向き合うためでもある。
会ったころは、浪人生のような中途半端な目をしていた。
今の自分を、いいのかとか、それでいいとか、逡巡していた。
失敗を繰り返して、いろんなことに触れながら、成長していくのが人だから、宇宙がステキになるためにいろんな経験をさせようとしているんだと、話をした。
私に見せるように、ふだんの自分からもうひとりの自分に変わるように、ゆっくりと脱いでいった。
さなぎが蝶々になるようだった。
心細げな瞳が、覚悟を決めたように、瞬間輝いて、潤いを帯びてから、安らいだ感じに変化した。
生まれたままの姿で、ちょこんとかわいくいた。
Mのはかなさと女としての戸惑いと、いろんなものを含んだ表情は、少しすねたようで、さみしげで、被虐も感じていて。。。
開放しようとしていたし、瞳の真ん中の黒いところをのぞき込むと、いつも目をそらす。
こころの奥に秘めていたものを、私にだけ見せたこと、そのために、なんども逡巡して勇気をふりしぼったことは、飼い主だから、わかる。
奴隷のポーズをさせた。
膝立ちで両手を頭の後ろで組む。
腰をつきだし、飼い主に体を捧げる。
次、と言うと、躾けた通りに自分で開いた。
そうしながら自分と向き合おうとしていた。
目を見ればわかる。
主従は深くなるから、なんだか全部わかっちゃう。
不思議だけれど。
背中を向けて、頭をつけた。
ゆっくり腰を持ち上げて、上がりきると、少し間をおいて、尻をぐいと持ち上げた。
そして両手を背中で組んだ。
検査のポーズだ。
見せてごらんと言うと、いつも、聞こえないくらいに、ああ…って嘆いて、両手で自分で開かせた。
よしというまで、そのままの姿勢を保つことが奴隷の作法だと教えたので、美雨はそれを守った。
羞恥と被虐のあまさとを感じながら、見られていることに耐えられなくなると、体が自然に反応してぐいと締まった。
「力を抜いて、開きなさい」
はいご主人様。。。
それでも羞恥に負けて、またすぼまるから、開いたまま、というと、別の生き物のように美雨の女が動く。
胸が、ぎゅっと締まる。
閉じて。
開いて。
ストップ。
ひくひくさせてごらん。
もどかしさに動くから、おあずけ!
かわいい声で、はい、ご主人様。。。
そこは誰のものか聞いて、所有者は誰かと聞いて、ご主人様のものですと聞きたくて、何度も言わせた。
なんでそんなポーズをしているのかと聞いて、美雨はご主人様の奴隷だからですと聞きたくて。
何度も復唱させた。
美雨の体はご主人様のものだから、ご主人様の許可を得ないとさわれません。。。
ご主人様の許可がないと、いくことはできません。。。
限界に近かったから、欲しいならおねだりしなさい。。。
ください。。。
焦らした。
お願いしますと哀願させて、素直にしますと誓わせた。
筆をねだらる。
断言したい。
美雨は性欲だけで俺と向き合おうとしているのではない。
それはきっと、スピリットが何度も生まれ変わり、巡り合えたことを、どこかで感じているからだ。
いい子って言って、こっちを向いて足をM字に開かせる。
自分でしなさいと、指を動かさせた。
あまい吐息が耳の奥に響く。。
切迫してきた感じになると、おあずけ!
はじめ! の合図で再開させた。
かわいらしい膨らみがぷっくりしてきて、子宮が下がってきて、寸止めさせた。
はかなげで、弱々しくて、穢したとしても、弄んだとしても、初々しさと羞恥と気高さは失わない。
あああ…と上を向いて、それでも、はいご主人様と指の動きを止めた。
足をもっと開いてどうなっているかちゃんと見せなさい。。。
Sというのは、どうしようもない生き物だなあと自分で思いながら、ただ美雨を見ていた。
両手を背中で組ませた。
いいというまで、そのままにさせて女や表情に魅せられた。
やられちゃったなあって思った。
離せないのは俺の方じゃないかと思った。
私の荷や苦やさみしさを、共有しようとしている。
そのことを、けして忘れちゃいけない。。。
十月の風
中島みゆきの「糸」を唄って、帰った。
十月の風がいい。
少し潮の香りがした。
鍵を開けると暗くて、窓から月が見えた。
灯りをつけるのがもったいないから、そのまま寝た。
月の静かな灯りが、いろんな全部を包んでくれた。
どんなにさみしくても、月も太陽も変わることなく照らしてくれている。
次の日、寝過ごした。
だめだなあって、頭を、ごちんと叩いた。