今日、月がよかった。
上弦の月で、小さくて、霞がかかっていた。
もの哀しくてはかなげで、それでも静かな力強さと、温かさを感じた。
ひとりで見ていると、胸が痛くなった。
いろんなことを思いだしていた。
月も孤独だったけど、俺みたいに弱くなかった。
こころがしゃんとした。
あまい仕置き
Rちゃんはお仕置きされた。
もうずいぶん前のことだ。
ロフトの板に、両手を合わせて縛り、吊った。
少し離れたソファに座ってRちゃんを眺めていた。
前を向かせていたから、うつむいていて、だから顔を見せなさいと言った。
叱られた子供のようなRちゃんは、退行して子供に戻っていたようだった。
だから羞恥に辛そうな、せつなげにしていたけれど、委ねることであまえるような複雑な面持ちだった。
脇のへこみや、うつむいて髪が垂れているのや、仕置きを待つことで濡れているのを隠すように内腿をこりす合わせていることや、ふだん社会で頑張っていることや、いろんなことがわかった。
飼い主の自分にしか見せないほんとのRちゃんだった。
後ろを向きなさいというと、背中を向けた。
足を揃えていたのが女らしくて、意地らしかったのを覚えている。
鞭を使われるのをわかっていた。
そのままにしばらくさせておいたら、自分からさしだすように、ほんの少し、尻をつきだした。
待ちわびているように見えた。
支配され、体を所有されているはかなさがあった。
前に廻り、両手で頬を挟んで、どうしてそんな格好をさせられているのかと聞いた。
お仕置きですと、目を閉じて答えた。
耳を甘噛みしながら、どうしてお仕置きされるのか、問い、答えさせた。
小さく喘ぎながら、細い声で答えていた。
後ろに廻る。
胡坐で座り、目の前の尻を打った。
打つと尻の肉が揺れるのが、性的であり、心の動きのようにも思えた。
静かで、鞭の音だけがしていた。
Rちゃんはじっと耐えていた。
足を開かせた。
股間を下から、弱く鞭でなぞった。
バラ鞭から乗馬鞭に変えた。
Rちゃんは乗馬鞭が苦手だった。
バラ鞭は広い面をずしんと叩く。
乗馬鞭は定点に、ぱんとはじくようになる。
バラ鞭は子宮に響く。
乗馬鞭は肌の表面を刺激するから、叩かれた感じが強くなる。
みじめさが増す。
だから、使いわける。
ごめんなさいと言わせた。
吊られた二の腕に顔を預けて、尻を鞭打たれた。
大人の女が裸で吊られ、尻を叩かれていた。
喘ぎがあまくなってきた。
仕草が変化した。
被虐に、Mの部分が反応してきた。
前を向かせて、顔を見た。
頬がほんのり朱かった。
唇を少し開いていた。
仕置きされ、感じさせられた顔を、命令だから見せなければならない。
見られるという羞恥と見てもらっているという安堵が混ざっていた。
M性のない人には、仕置きのあまさはわからない。
素直な女になりますと誓わせた。
よしよしと紅い尻をなでた。
くすんくすんと少し泣いたから、泣かなくていいと涙を拭くと体がぶるんと震えたのがかわいらしかった。
ぼんぼりの月
手をほどいた。
ソファの隣に座らせて肩を抱いた。
背中をさすると少し冷たかったから毛布をかけた。
部屋を暗くすると、しんとなった。
小さな窓から月が見えた。
主従だったから、縛らなかったけれど、首輪をかけた。
ずっと続かないことがわかっていたから、Rちゃんがしがみついてきた。
コーヒーを飲んで、静かに月を二人で眺めた。
もう泣き止んで、安らいでいた。
夜の空に、こつんと置いてあるような月をじっと見ていた。
月の灯りと、Rちゃんの体温と、ちょこんと隣にいるということだけで、なんもいらなかった。