街の人混みの中で、美雨はいつもすぐに私を見つける。
自分らしく生きようとして、だけどそうできないときは誰にだってある。
M性を解放して、輝いてきた。
主従関係恋愛
はじめのころは、凜としていたけれど、つっぱらかって無理をしている感じがした。
一生懸命生きてきた感じがした。
なんども逡巡し、調教されてみたい、自分を確かめたい、縛られてみたいという真剣なメールだった。
私は椅子に座り、足を組み腕を組んで目の前に立たせた。
服を脱いで体をだしなさいという命令に、すっと目の奥が変化した。
逡巡しながら着ているものをはいでいく。
その時間こそ、Mの自分と向き合う時間だ。
仕事や生活や夢や、社会とつじつまを合わせることなんて、とっくにやっている。
ただ頑張れとか、誰だって辛いとか、そんな上っ面のことじゃない。
孤独や、私の知らないほんとうにたくさんのことを抱えていて、わからないけれど、そんな気配だけはわかる。
縄で縛る。
鞭を打つ。
縛れる、縄で打たれる自分と向き合う。
自分のマゾの部分をもてあまし、自分は普通じゃないのかと悩み、将来やいろいろを考えて考えて、思い悩み、自分のためにSMと向き合おうとしたのが、私と出会った時の美雨だ。
心の奥が深いから、自分をすぐにさらけださなかった。
怖かったのだと思うし、あまえかたがへたくそだったし、どう委ねていいのか不安だしわからなかっただけだ。
そんな心情をかわいいなと私は思った。
調教のあと、首輪のまま、腕枕で、私が見ていてやるというと、目が合って泣いた。
さみしかったのだろうと思ったけれど、あとで知ったのは、私の目を見て、孤独を感じ、自分と似ていると思ったのだと聞いた。
主従という恋を、私はしている。
勇気と力、若さ、自分が失いそうになっているものを美雨はくれた。
自分さえよければと言う社会かもしれないけれど、思いやりや宇宙の愛を信じていいのだと教えてくれた。
ご主人様と奴隷
SとMは究極の男と女のつながりだと私は思う。
そうじゃないという人もいるから、それはそれでいい。
つながりは深くなり、哀しくなるほど愛しくなる。
恋の駆け引きなどまったくいらない。
心も裸になり、共鳴する。
やっと出会えたと自分の奥底が震える。
もちろん主従だから、調教、飼育、管理する。
支配し所有する。
緊縛して、首輪をつけて、体を調べ、追い上げ焦らし、ねだらせ解放させる。
仕置きして、褒美を与える。
いじめて、かわいがる。
ごめんなさい、素直にしますと鞭で叩かれる。
いい子だとハグされる。
深くつながらないでどこが主従なのだろう。
ただプレイだけで単なるストレス解消だっていい。
そういうのもあるけれど、私はもっと深くつながるのがご主人様と奴隷の関係性だと思う。
だから軽いノリや単なる性欲だけでSMと向き合おうとするのはいやなのだ。
私はホストじゃないし、ストレス解消や性欲のはけ口じゃない。
奴隷になるというのは墜ちることじゃない。
解放だ。
膝を抱えて泣いている奥の自分と向き合うことだ。
マゾヒズムは変態じゃない。
自分に自信がない、いじめられたい、陵辱されたい、縛られたい、首輪で繋がれたい、お仕置きされたいのは、平安を求めているからだ。
だれかに自分を見ていて欲しい、認めて欲しいという心の奥の願望だ。
それはさみしいからだ。
あまえたいからだ。
SMは痛いとか汚いものじゃない。
被虐のあまさや、委ねるせつなさだ。
縛られ体を拘束されることで平安を得る。
裸で首輪で繋がれるとあまずっぱい。
鞭は子宮が疼く。
命令されると飼われている奴隷の自分が愛しい。
お仕置きされたとき、主に所有されている自分がはかない。
野良わんこじゃない。
主がいつも見ていてくれる自分だ。
主のために、主の好みに変えられていく自分は健気だ。
頑張っている自分、ほんとうの自分を主だけは知ってくれている。
そして主の苦しみも自分だけが知っていて、奴隷のじぶんにだけ弱さも見せてくれる。
自慰を管理され、焦らされ放置され、許しを請い、女としてのその瞬間まで主に捧げる。
厳しくされ、それから優しくハグされる。
もっと自分を大切にしようと心の奥からふつふつと太古の力がよみがえる。
自分らしく、輝いてきて、頑張れる。
いつまでつづくかとか、将来を考えながらも細い糸をつかもうとして、それはおたがい生涯忘れられない時間になる。
Mとして生きていくのかもしれないし、解放して卒業するのかもしれない。
生涯の出会いかもしれないし、ひとときなのかもしれない。
だけどアタマの計算や理屈じゃない。
頭が真っ白になるほどの恥辱、背骨が軋むほどの快感、刺激を与えられないもどかしさ、体を捧げるやるせなさ。
被虐のあまさ。
主従のせつなさ。
自分は孤独ではないし、主もそれは同じだ。
主は自分を奴隷にすることで癒やされ、そのことで自分も癒やされる。
そういうのがSMで主従だと私は思う。
だからあまい。