アゲハ蝶が道路の水たまりで水を飲んでいた。
山からはぐれたのだろうか。
排気ガスとコンクリートの照り返しの中で、羽が震えていた。
横浜の中華街に近いとある駅。
学校の植え込みに花が咲いていた。
蝶々が、それを見つけられればいいのにと思った。
コンクリートのすき間から、雑草が小さな赤い花をつけていた。
こころも裸になりなさい
何気なさと、元気な感じは羞恥を隠すための装いだろう。
葛藤を知られたくないのだ。
こころの中は、自分の領域だと思っていたのだろう。
スカートが風になびいて、髪が少し揺れた。
美雨の、二度目の調教。
調教の日まで、自慰をしないこと、前の夜、股縄で寝ること、そのままくることを命令していた。
ホテルで目の前に立たせて、スカートをあげさせた。
裸より羞恥が強くなる。
少しずつあげさせて、股縄が見えるところで止めた。
きっちり食い込んでいた。
縄を外して濡れている部分を見せた。
Mだから、命令されること、恥ずかしいことに反応する。
「足を開きなさい」
濡れている筋をなぞりながら、反応を見た。
「服を脱いで体を見せなさい」
羞恥がM女の魅力だ。
脱いでいく様がせつなげでいい。
今は調教だけだから、主従ではないし、恋愛ではない。
それでも主従のように接した。
すべて脱ぎ終わると、あきらめたような、覚悟を決めたような表情になった。
「両手を背中で組みなさい」
「しゃんと立っていなさい」
「足を開きなさい」
ソファに座る私の前で、命令に従いながら、表情が変化してきた。
しばらくそのままにさせておいた。
横を向いて、目をきつく閉じていた。
何かに耐えているような感じがMらしい。
指で弱く刺激するだけにした。
こころより体がまず反応する。
弱い刺激だけ与えた。
豆を転がしてはやめた。
それから、腰を荒く抱いて、指で中をえぐると哭いた。
縛られたいかと聞くと、うなずいた。
いじめられたいのか。。。
はい。。。
はい、ご主人様だろ?。。。
はい、ご主人様。。。
自分で言いなさい。。。
虐めてください。。。
「自分で開いてごらん」
躊躇したから、あとで仕置きだというと、ごめんなさいと声がかすれた。
時間をかけて、自分で開かせた。
「腰をつきだしなさい」
それから、いちばん命令したかったことを口にした。
「こころも裸になりなさい。すべてをさしだしなさい」
「ああ……」と嘆いて、素直にした。
もうひとりの自分
「後ろ向きで正座。両手を背中で組んでごらん」
優しく言うと、命令に従う仕草が弱々しくて、はかなげだった。
ひとりで悶々としていたのだろう。
バランスをとろうとして、無理をしたり、自分を責めたり、人と比べたりして傷ついた時もあったのだろう。
勇気をふりしぼってきたのだろう。
きっちり高手小手に縛る。
胸の上下に縄を廻した。
前を向かせた。
縛られ、正座してうつむく女性はせつない。
この前は、軽い縛りと首輪とおすわりやちんちんだったから、その日は鞭を使った。
ベッドでうつぶせで、縛られた体で、尻を持ち上げ、鞭で叩かれた。
バラ鞭だから、最初だから弱くした。
打ちながら言った。
「もうひとりの自分を見なさい」
ふだんの自分と、Mの自分。
Mの自分の中に幼いころの自分がいる。
膝を抱えて泣いている。
SMは開放だ。
性欲だけじゃない。
だけど性的に満たされて、そこも癒される。
それを飼い主に委ねるのがMで、主従として調教・管理・飼育される自分にほっこりするのが奴隷になるということだ。
何も特別なことじゃない。
仕事も夢も、そのままだし、より充実する。
屈服し、すべてを捧げる仕草や、調教され、羞恥に身を焦がし、体が火照る仕草こそM女の魅力だ。
それは経験しないとわかならい。
従順になってから、仰向けにさせた。
「足を開いて女を見せなさい」
「もっと開きなさい」
生きてりゃいろんなことある。
それをうずめるなにかがあっていい。
開放
体が震えていたから、繊毛が揺れていた。
さわると柔らかかった。
ローターを入れて、半分だけ頭をだして、また入れた。
筆で、内腿や乳首をいじめた。
アリの戸渡を筆でなぞると大きくのけぞろうとした。
「許可をもらってから、いきなさい。勝手にいったら罰があるよ」
あああ……となげいて、それでも、はいご主人様と答えた。
幼い子供のように安心しきっていた。
SMのほんとうのよさは、お互いの信頼がないとわからない。
体は反応するけれど、SMはあまさやせつなさや羞恥で、それは被虐だ。
それは相手に委ねることができないと無理だから、誠実に向き合わないと主従は成り立たない。
(徹底的な凌辱や、どん底に落ちたいというマゾ女性もいることはいるけれど)
世間的におかしくなるようなことや、将来を傷つけること、人生をマイナスに振ることはだめだし、こっちも、ともにいることで癒され、前向きになれる相手じゃないと続かない。
乳首にクリップをつけてはじいた。
外すと、いやあと哭いた。
正座で足がしびれるように、敏感になるから、筆でいじめた。
ローターを外して、指でねぶった。
しばらくすると、その子の体がわかってきた。
どこが敏感で、どうすれば体が火照るのか、被虐をどこで感じるのか。
鞭を使ったから、子宮は敏感になっていた。
電マをあてて、弱に入れて、そのままにした。
いきそうになって、我慢しなさいと何度も言われ、はい、ご主人様と返事を繰り返した。
体の痙攣や子宮が下がってくること、喘ぎ方でこころがわかる。
素直だったのは、純粋だからだろう。
こころも裸になること、もうひとりの自分と向き合うこと、開放すること。
その言葉をちゃんと聞いていた。
それでも体は熱くて制御できなくなった。
それでも焦らしてから、開放のおねだりをさせた。
かわいく跳ねた。
そのままの姿勢でいることを命じた。
女としてもっとも美しい、そして恥ずかしい姿をさらして、それでも安らいでいた。
女がひくひくして、屈服された哀しさがあった。
余韻を堪能させてから、うつぶせにして、尻やアナルや背中を筆でなぞった。
「せつないね。せつない せつない」
と耳元で囁くと、ごめんなさいと何度も繰り返した。
明日から、人生を演じるのだろう。
無理をしたり、翻意じゃない生き方もしなければならないのだろう。
だけど、すべては学びであったといつかわかるだろう。
ひとりの時間は、自分を強く優しくしてくれるだろう。
人生の一時期、奴隷になるのか、一時、調教されるM女として縛られるのか。
ひとりになって考えればいい。
強引に持っていくほど、私は若くないし、へたれじゃない。
私は男だ。
中華街で飯を食った。
凛としていたのは、装っていたからではなく、命の強さだろうと思った。
駅につくと、さっきの花が風に揺れていた。
あれから2年になる。